マイリー・サイラスが語る「EMDR療法」──ステージ恐怖を乗り越えた心の治療法とは?
グラミー賞受賞アーティストのマイリー・サイラスが語る「EMDR療法」──ステージ恐怖を乗り越えた心の治療法とは?
グラミー賞受賞アーティストのマイリー・サイラスが、自身の心の不安やステージ恐怖を乗り越えた経験について語りました。そのカギとなったのが、「EMDR(眼球運動による脱感作および再処理法)」という心理療法です。
パフォーマンスへの不安とEMDRとの出会い
マイリー・サイラスは、長年にわたり「ハンナ・モンタナ」として、また自身の名義でも世界中の大舞台でパフォーマンスを続けてきました。しかし、パンデミック中に大勢の観客の前でパフォーマンスすることへの不安を感じ始めたと語ります。
彼女がその不安を乗り越える手助けとなったのが、EMDR療法でした。「大好きよ。本当に私の命を救ってくれたの」と彼女は語ります。
EMDRセッションの驚くべき体験
セッション中、セラピストはマイリーに「列車に座るイメージ」を促し、心の中で映画のように自分の人生を振り返るよう導いたそうです。
「私は『みんなに私を好きになってもらいたい』と、心の奥底でずっと願っていたことに気づいたの」と語る彼女。そして、その感情の起源を探ると、心の中の列車は過去へとさかのぼり始めます。
彼女の記憶は、母親が養子として祖母に引き渡された場面や、自分自身も出産直後に祖母に抱かれた瞬間へとつながっていきました。「そのとき、私と母が同じ人に守られていたことを感じ、深い一体感を覚えたの」と語ります。
心が解放された瞬間
セラピーの終盤、彼女は心の中でモンタナ州の雪山にいる自分をイメージします。赤いコートとベレー帽をかぶった少女時代のマイリーの元に、亡くなった愛犬や祖母、母親、現在のパートナーが現れ、みんなで手をつないで「輪になって遊びましょう」を始めたのです。
「その瞬間から、私はもうステージで怖さを感じたことがない」と語っています。
EMDRとは?──科学的視点から解説
トラウマ治療に特化した心理療法
EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)は、トラウマ記憶に焦点を当てながら、眼球運動やタッピング、音刺激などの「両側性刺激」を加えることで、脳の自然な回復力を引き出す療法です。
この方法は世界保健機関(WHO)や米国心理学会(APA)でも推奨されており、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に有効とされています。
8つのフェーズで構成
EMDRセッションは以下のような8段階のプロセスで進行します:
1.履歴の聴取
2.クライアントの準備
3.対象記憶の評価
4~7. 記憶の再処理
8.効果の評価
従来のトークセラピーとの違い
通常のトークセラピーとは異なり、EMDRでは記憶そのものに働きかけることで「記憶は残るが、感情的な痛みは消える」という効果が期待できます。
EMDRに向いている人・向いていない人
すべての人に適しているわけではない
EMDRはトラウマやPTSDを抱える人に特に有効ですが、すべての人に適しているわけではありません。
過去に何度も悩みを話してきたのに「まだ感情的に乗り越えられない」と感じる人には、特に効果的です。
効果には個人差も
マイリーのように1回で大きな変化を感じる人もいれば、一般的には6〜12回のセッションが推奨されています。単発のトラウマには短期間で効果が出ることもありますが、複雑なトラウマにはより長期的なアプローチが必要になる場合があります。
「思い出すだけ」で終わらない、未来を変える治療法
セラピストの指導のもと、過去の記憶をただ思い出すだけではなく、「再処理」することによって未来の自分を変えていく──それがEMDR療法の本質です。
「人生の中で最も怖かった記憶に向き合い、それを乗り越えられる。だからこそ、自分を被害者ではなく『生き延びた人』として再定義できる」と専門家たちは語ります。
あなたも試してみたいと思ったら
もしあなたが過去の記憶やトラウマに悩んでいるなら、EMDRを実践している心理専門家に相談してみるのも一つの方法です。マイリー・サイラスが語るように、人生を取り戻すための一歩となるかもしれません。
